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運動時のエネルギー源の種類 [ATP-CP回路/嫌気的解糖系/好気的解糖/脂肪分解]

以前の記事で、ランニングのエネルギーがどういった形で使われるのか、生成されるかを、筋肉/心臓/肺という有酸素系の面からマクロ的に説明しました。しかし、筋肉でエネルギーを生成する方法はいくつか種類があり、もっとミクロな視点や化学反応の面から考えないと、説明ができないんです。また、酸素がなくても、エネルギーが生成できる系もあります。
今回はそのような筋肉で使うエネルギーを生成する系にはどういったものがあるかを説明します。非常に難しですが、自分のランニングのエネルギーを生成している化学反応の話ですので、概要レベルでも知っておいた方がいいかと思います!
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体内のエネルギー通貨 ATPについて

ATPと役割と分解反応、エネルギー放出!

まずATPという超重要な化合物について説明します。ATPは体内のエネルギー通貨といっていいほど重要な化合物です。このATPは下記のような化学反応がおこり、エネルギーを放出します。

 ATP + H2O → ADP + Pi + 7.3kcal

ここで、ATPとはアデノシン三リン酸のこと、ADP とはアデノシン二リン酸のこと、Piはリン酸を意味します。この化学式だけ見ると水かしいですが、簡単言うと、下記のような図で表せます。アデノシン三リン酸(ATP)は図の通り、3つの緑色のリン酸が付いた化合物です。このアデノシン三リン酸が分解されると、リン酸が二つのアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸1つに分かれます。ここで重要なのが、この分解で7.3kcalのエネルギーが得られることです(1molあたり)。つまり、ATPがあれば、ADPにすることで7.3kcalのエネルギーがどこでも得られるわけです。このATPを体内ではエネルギーの通貨のような形で運搬したり、エネルギーを使用したりします。人間でいうお金が、体内でいうATPなわけです。
図5

ATPをどれだけ作れるかが、エネルギー生成効率となる

以後、体内エネルギーを生成する回路を全て説明していきますが、基本となるのは「このATPをどれだけの数つくれるか」です。このATPの数(mol)×7.3kcalが総エネルギー量となるわけですから。なので、様々な複雑な回路がありますが、結果的には、どれだけの原料からどれだけのATPが生成できるかを見ればいいわけです。

エネルギー生成回路(ATP生成回路)

1.ATP-CP系 (超短期、無酸素的エネルギー生成)

このATP-CP系は酸素いらずでATPを生成でき、すぐに枯渇してしまうエネルギー回路です。ですので、無酸素運動と呼ばれるものは、この回路によってエネルギー生成されていると言って良いかと思います。このATP-CP系回路の基本となる化学反応は下記のものです。
 クレアチンリン酸 + ADP ⇔ クレアチン + ATP
この化学式は、ADPの数が多くなると、クレアチンリン酸がそれと反応してATPを再合成することを意味しています。簡単に表すと下記の図のようになります。ATPをつかってADPに変化してしまっても、クレアチンリン酸がクレアチンに変化することにより、エネルギーの源であるATPを再合成できるわけです。
図6

ATP-CP回路は100m走だけで枯渇してしまう!

体内にはいくらかのATPが存在しています。しかし、その生のエネルギー源であるATPは数がめちゃくちゃ少ないんです!一般的に骨格筋1gに6μmolしか含まれていないそうです。なので例えば骨格筋が30kgの人だと、30 × 6 × 7.3 ÷ 1000 = 1.314 kcal ぐらいしか含まれていないんですね!少なすぎる!
それに対して、このクレアチンリン酸は骨格筋1gに20~30μmol含まれているようです。また、使ってもすぐに補充されます。ですので、上記のように、クレアチンリン酸を使って何度も何度も ADP ⇒ ATP に変換して使い切れば、、、体重1kgあたり100cal程度まではこのATP-CP系で生成可能なようです。このとき、全力で疾走(100m走)すると、体重1kgあたり13cal/秒消費されるようです。そのため、このATP-CP系を全力で消費すると100/13=7.8秒しか、エネルギー供給できないことになるんです

2.嫌気的解糖系 (短期、無酸素的エネルギー生成)

こちらも、ATP-CPに続く無酸素でエネルギーを生成する系です。立場的にはATP-CP系よりは長くエネルギー出力できますが、有酸素エネルギーより効率が悪いといったとこです。化学式としては、下記のように、1つ(mol)のグルコースから2つのATPが生成できます。
グルコース ⇒ 2ATP + 乳酸
この嫌気的解糖系を簡単に説明したのが下記図です。体内にあるグリコーゲン(炭水化物の塊)を原材料として、どんどんどんどんグルコースに分解されていき、最終的にはピルビン酸というものと乳酸にまで分解されていくのが分かるかと思います。最後に乳酸が生成されるのが肝です。乳酸って、疲労物質といういめーじがありますよね、、、まさにこれがそうです。これが後述する、有酸素的な分解だと、乳酸はむしろ使われる方向になるんです。
図8

3.好気的解糖 (長期、有酸素的エネルギー生成)

ここにきてやっと有酸素系のエネルギー生成回路が登場です。化学式は下記の通りになります。ただし、これは上記の嫌気的解凍が終わった後の反応をしめしているため、実際には嫌気的解糖の2ATP+下記の36ATPで、合計38のATPが生成されます!酸素がない場合よりも、大量にATPを生成できるんです!
 グルコース + 6×O2 ⇒ 6×CO2 +6×H2O + 36×ATP
この好気的解糖を図で示すと下記のとおりです。嫌気的解糖がおわったあとにピルビン酸と乳酸が生成されますが、このときに酸素がある状態であれば、ピルビン酸はTCA回路というミトコンドリア内の複雑な回路に取り込まれます。ここで何段階かの化学反応を得て、36個のATPを最終的には生み出します。ここで重要なのが、この取り込みが酸素がある状況でしかおこらず、酸素がない場合は上記の嫌気的解糖にとどまってしまうことです。逆に酸素がある場合はピルビン酸がこのTCA回路に取り込まれ、数が少なくなった場合には、乳酸を再度ピルビン酸に変化させてTCA回路に取り込むということです。つまり、酸素が十分な環境では、乳酸も実は味方として働き、エネルギーを生成してくれるんですね!また、この回路ならばグリコーゲン(全身で2000kcal程度の蓄え)が枯渇するまでずっと使い続けられるので、長持ちして安定的にエネルギーが供給できます。
図9

4.脂肪の分解 (長期、有酸素的エネルギー生成)

これも上記の好気的解糖と似ています。ミトコンドリア内のTCA回路で、ATPに変換されます。その変化は脂肪の種類によりますが、飽和脂肪酸であるパルミチン酸という脂肪だと下記のような反応が起こります。
 C16H32O2 + 23×O2 ⇒ 16×CO2 + 16H2O + 130ATP
ちょっと複雑そうですが、酸素が必要ということと、ミトコンドリア内のTCA回路に入るというところまでは一緒です。また、ATPの製造数は脂肪酸の種類によって異なってきます。
図10

好気的解糖よりも、いくぶん効率が悪い

上記のような、脂肪酸ですが、糖分を原料とする解糖よりも少しだけ効率が悪いです。好気的解糖の式を見てみると、6つのO2から36ATPを生成しているため、酸素の6倍のATPが生成できるといえます。それに対して、パルミチン酸は23個のO2から130個のATPを生成しているため、酸素の5.7倍程度しかATPを生成できないのです。ですので、速く走ろうとすると、身体は自然にグルコースを原料とする解糖が選ぶようになっています!

グルコースよりも大量に脂肪は蓄えられている

グルコースよりも脂肪酸のほうが効率が悪い、、とのことですが、量は脂肪のほうが圧倒的に上です。グルコースは体内に1800kcal~2000kcal程度しか貯蔵できませんが、脂肪はかなりの量が蓄えられます。脂肪は1kgあたり7200kcalと言われています。そのため、体重50kgで体脂肪率5%の人でも、2.5kg×7200= 18000kcalも貯蔵されているんです!なので、速度ではグルコース(糖分)、貯蔵量は脂肪のほうが上となるんです!

まとめ:人の身体は無酸素で超短期的に、有酸素で長期的にエネルギーが生成できるようになっている!

まだまだ話は続くのですが、長くなるのでここでまとめます。まず、人間のエネルギーはATPという共通通貨が基本となって、それぞれやり取りされています。その中で、人間の身体は大きく分けて、1)無酸素的エネルギー生成、2)有酸素的エネルギー生成の二つがあります。無酸素はATP-CPに代表されるように、超短い時間で利用可能なエネルギーとなっており、100m走で使われます。逆に有酸素系はグリコーゲンや脂肪が無くならない限り、ずっとエネルギー生成できる回路になっています。

で、ここから各エネルギー生成回路がどういった時に使われるかの説明をしたいのですが、、、長くなるので記事をここで切ります。続きは、次の記事で!
⇒ 次の記事で、今回紹介した4つのエネルギーが各種目でどういった割合で使われるのかをグラフイメージで示しています!ご参考にしてください!


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